ユリイカ10月号「特集 福本伸行」に寄稿しました

おはようございます、坂上です。
ユリイカの「福本伸行」特集に『モル的な闘牌―赤木しげる桜井章一』を寄稿しました。麻雀に興味のない人には何を言ってるのかさっぱりわからないだろう批評ですが、ルール程度でも知っている人は是非。
あと、今回は「福本伸行全著作解題」も担当しています。僕の担当分は『アカギ』、『天』、『賭博堕天録カイジ』、『銀と金』、『熱いぜ天馬』、『春風にようこそ』、『銀ヤンマ』になります。福本の麻雀漫画が全て僕に回ってきています。どうやら僕は重度の雀キチとして編集部に認識されているようです。解題といってもみんなそれなりに主観的に書いていますので、そこそこ物語性は高いものになっているかと。楽しんでもらえれば幸いです。

その他ラインナップはこんな感じ。

特集*福本伸行 『アカギ』 『カイジ』 『最強伝説 黒沢』・・・賭けつづけるマンガ家
【対談】
「ドル箱」 いっぱいの愛を! 勝ち負けと、その先 / 福本伸行×大槻ケンヂ
【初期作品】
いけないカッちゃん ラブストーリー / 福本伸行
【福本という作家】
愚直の人 / いしかわじゅん
“モテない男” にも五分の魂 / 南信長
〈必然〉と〈偶然〉からの福本伸行論 / 三浦俊彦
【『アカギ』 あるいは、〈理〉を超越する意志】
合理的な不合理主義者としてのアカギ / とつげき東北
モル的な闘牌 赤木しげる桜井章一 / 坂上秋成
【『カイジ』 という祝祭の場】
賭博者(モラリスト)としての 「カイジ」 / 前田塁
実写化という 「エスポワール」 / 大森美香 [聞き手=宇野常寛
【『黒沢』――闘争への序曲】
天はクズの上にクズを造らず 『最強伝説 黒沢』 論 / 杉田俊介
ガジェットと木偶の坊 黒沢の最強伝説にみられる戦術について / 池田雄一
【僕等の手の在処】
賭博漫画と悪 福本作品のリアリティについて / 酒井信
決起の論理 『カイジ』、『最強伝説 黒沢』、そして秋葉原事件 / 白井聡
心と世界が交互するざわめき / 中田健太郎
ゆがみの図像学 「ぐにゃあ」 と世界が崩れたら / 麻草郁
「未来は僕等の手の中」 ブルーハーツ福本伸行 / 川島章弘
リーダーはみんなのために 福本キャラと戦国武将に見るリーダーシップ / 榎本秋
【資料】
福本伸行全著作解題 / 編=市川真人

僕もまだ全部読んだわけではないのですが、今のところ素晴らしい出来だと思えるのが前田塁によるギャンブル論。本気でギャンブル狂いなんじゃないかと思わせる気迫が文章から漂ってきます(笑)ローマの歴史家タキトゥスの話から始まる辺り、前田さんのセンスが光っています。「無謀さをいつ、どこに投入するか」が〝賭博〟にとって真に重要だとする議論には全面的に賛同したいところです。

あと、自分の話で恐縮ですが、今回麻雀について批評を書いているのは僕ととつげき東北氏の二人で、共に『アカギ』をベースに思考しているにもかかわらず、麻雀そのものに対する考え方は全く別物になっています。いや、お互いがお互いの全てを否定する文章を書いているといっても過言ではないくらいです。ただし、ここでの対立はどうも世間によくある「デジタルvs流れ論者」というくだらない枠組みとは大分異なるもののように思えます。もちろん、大まかな括りとして、僕が流れ論者でとつげき東北さんがデジタルということにはなるのですが、どうやら決定的な差異を産み出しているのは麻雀というゲームの目的をどのように捉えているかというところにありそうです。とつげきさんは、『科学する麻雀』や今回の論考を読む限り、徹底して麻雀というゲームの客観的な真理を探ることを目指し、そこから勝利に辿りつこうとしています。それに対して、僕の場合は――全くの未熟者ですが――桜井章一の教えに従って打ってきた者として、麻雀に勝利することのみならず、闘牌を繰り返す中で人間的な成長をも目指さなければならないと考えています。このようなゲームにおいて何を目指すかという目的の違いが、打ち筋のズレにも繋がるのだろうし、ネット麻雀という新しい形態の麻雀への認識のありかた――言うまでもなくとつげきさんは肯定派で僕は否定派です――にも関わってくるのだろうと思います。いずれにしても、論考を合わせて読んでいただくと、麻雀ファンの方は一層楽しめるのではないかと。
それにしても、とつげきさんと僕との対立はそのまま自然科学的エリートと街の雀ゴロの対立みたいになっていて、必然的に僕が頭悪く見えてしまうというのが困り物です(笑)

そんな感じで、ご意見ご感想等ありましたら、コメント欄やメールで伝えていただけると幸いです。こんな記事書いてたら早いとこ一仕事終えて麻雀打ちたくなってきた……